制作:2008年・日本/オランダ/香港監督:黒沢清
脚本:マックス・マニックス/黒沢清/田中幸子
出演:香川照之/小泉今日子/小柳友/井之脇海/井川遥/津田寛治/児島一哉/役所広司
健康機器メーカー、総務課長として働く佐々木竜平(香川照之)は、人事部に呼び出され、リストラを宣告される。突然の出来事に、呆然としたまま帰宅するが妻、恵(小泉今日子)にリストラされたことを言い出せなかった。夕食時、小学校6年生で次男の健二(井之脇海)はピアノを習いたいと言い出すが、竜平は反対。翌日から、会社に行くフリをして、毎日ハローワークへ通っていた。ある日、大学生の長男・貴(小柳友)が、世界平和のためにアメリカの軍隊に入りたいと言い出す…。(gooより)
権力を振りかざし自分の価値観を家族に強いる父親。
家族の調和を保つために良き主婦を演じる妻。
親の願望とは別に自分たちの生き方を模索している子供たち。
多少の差はあれ普通にありそうな家族の風景。
ぎこちなくとも波風が起こらなければ問題はない。
しかし父親のリストラを機に個々の隠された感情が露にされ、家庭が崩れていく。
前半は今にも崩れそうな家族を描写しながら現実社会のシビアさを映し出す。
竜平は突然のリストラを父親の権威を失うのを恐れ家族に言えない。
リストラ仲間の津田寛治演じる黒須の行動は最初はどこかユーモアさえ感じるのだが、次第に後戻りできない状況に陥ってしまう。
どこか人間性の欠落した健二の担任の先生、健二のピアノの先生の事情など、脇役で描かれる状況もシビアだ。
後半、何とか保っていた均衡が崩れ悲劇へと流れていく。
前半とカラーが変わりどこか非現実的でその描写は黒沢監督が得意とするホラーのようでもある。
竜平の健二に対する過激な暴力、泥棒に襲われる恵、健二の友人の父親の暴力、無賃乗車で留置される健二、そして精神的に追い詰められた竜平・・・。
全てが粉々に砕け散り、先がないと思われた後に訪れる意外なラスト。
決して涙を誘発するものではなく、しかし救いを感じられるラストは感動的だ。
<ネタバレ注意>
もし、健二が不起訴にならずにそのまま留置されていたら、もし母親が泥棒に殺されていたら、もし父親が車に撥ねられて死んでいたら結果は違っていただろう。
彼らは一度絶望の淵(あるいは精神的死)に追い込まれその中から再生する。
心身ともにボロボロになって帰宅した竜平、恵、健二。
彼らの戻るところはやはり家庭。
同じ食卓を囲む3人が以前よりずっと穏やかに見えるのは、演技のせいではなくそこに救いを見出した自分自身なのかもしれない。
家族の問題は解決したわけではないのかもしれない。
しかし、以前は投げやりだった清掃の仕事を一生懸命する竜平、そしてあれほど健二のピアノに反対していた竜平が健二の奏でるピアノを穏やかな眼差しで見つめる姿。
それは以前とは明らかに違う風景だ。
公式HPによると本作の原案となったのは、かつて日本に住んでいた経験のあるオーストラリア出身の新進脚本家、マックス・マニックスが執筆した日本の家族について書かれた物語。
彼の脚本はリストラされた父と、隠れてピアノを習う息子の関係に焦点を当てていたそうだが、黒沢監督は母親のキャラクターを膨らませ、さらに長男のキャラクターを加えたそうだ。
母が泥棒にさらわれる、長男がアメリカ軍に入隊するというエピソードは監督のアイディアなそうだ。
特に母親と泥棒のエピソードは突拍子もなく、ある意味違和感すら感じるが、それがホラーを得意とする黒沢監督の個性なのかもしれない。個人的には母親が泥棒にされる行為については不快でありそこまで描く必要性があるかは疑問に思う。
しかし、本作が社会問題を描きつつ、娯楽性を備えた秀作であることには間違いないと思う。出演者の演技も素晴らしい。
満足度★★★★★
お薦め度★★★★★
やったー!!!
満足度、お勧め度ともに★5つですね!
辛口みちさんの最高点ですね!
みちさんの書かれた内容が素晴らしい!
過不足なく、こんなにすっきり表現できるなんて!
>心身ともにボロボロになって帰宅した竜平、恵、健二。
彼らの戻るところはやはり家庭。
前半、徐々に加速度をつけながらそれぞれが転げ落ちていく様は、観ていて恐怖でしたが、それが今の日本では決して非現実的なものではなく、かなり現実味を帯びた様相だった(母はともかく)ので、3人がそれぞれ家に帰り着いた時は、しめつけられた心臓(私の)がほ〜っとゆるんだ気がしました。
失業して心中した竜平の友人や、大人になりきれていない無気力な健二の担任など、厳しい現実社会の中でねじれてゆがんでしまった人間性をコミカルに哀しく描いていて、笑いながら口元が引きつる感じ。
まさか!と思いつつ、現実の方が過激だったりする世の中ですものね?
母親や長男のエピソードはちょっと非現実かもしれないけど、そこに黒沢監督のこだわりやねらいがあるのでしょうね。
(私には初めての黒沢作品なので、そのあたりのことはよくわかりませんが…)
ともあれ、明るい日差しの中での健二のピアノ演奏のラストで私は気分よく映画館を出ることができました(笑)
2008.12.04 18:05 URL | かっぱ #- [ 編集 ]
>かっぱさん
ありがとうございます。
観終わった後にかっぱさんの日記のコメント欄を読みながら考えることができたのでまとめやすかったかもしれません。
お薦め度に関してはできるだけ多くの人に観てもらいたいので、満足度に関してはここまで大胆に描写した監督に対して。どん底への突き落とし方が半端じゃなかったところがいいですね。だからこそラストが生きてくる。
この映画の恐いところは非現実的でないところですよね。ある意味ホラーより恐いかも。
長男のエピソードは架空のものであっても、内容はかなり考えさせられるものですね。
風刺も込められているようですし。
津田、健二の担任、竜平そして役所広司演じた強盗にしてもどこか大人になりきれてない感じがしましたね。心の弱さは何か問題が起きた時露出するものなんでしょうね。
こんなご時世だからこそ決して絵空事ではないように思います。
>現実社会の中でねじれてゆがんでしまった人間性をコミカルに哀しく描いていて、笑いながら口元が引きつる感じ。
上手い表現です(^0^)そうそう、ねじれて歪んでしまった人間の滑稽さが笑えるんですが、このままではすまないだろうという不安もあって素直に笑えない部分もあったり。
>現実の方が過激だったりする世の中ですものね?
本当にそうですね。
色んなことがあっても帰る家があるって素敵だと思わせる結末でしたね。
そしてあのピアノの音色に心が洗われ、その余韻にいつまでも浸っていたい気分になるラストでした。
一度、地獄を見たからこそ分かる家族のありがたさ。(戻る家がある幸福)
こんなご時世だからこそ改めて家族について考えるべきなのかもしれませんね。
2008.12.04 19:06 URL | みち #ucCaNy.Y [ 編集 ]
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